2013年11月30日土曜日

第14回 参議院議員 脇 雅史さん(後編)

■震災復興と国土強靭化の関係とは?

山岡 前回のお話で、国土強靭化への政府、与党の意識の高さはよくわかりました。一方で、大震災からの復興に目を向けると、先行きへの不安感が漂っているのも事実です。先日も、取材で福島県の自治体の首長さんたちに会ったのですが、国土強靭化と東京五輪のインフラ整備に人、モノ、金が流れて復興は後回しにされるのではないか、という強い不安感を皆さん、口にしておられました。

 復興も強靭化、五輪もすべてやらなくちゃいけません。日本はできるはずです。明治期も、敗戦後の昭和の時代も日本は貧しかった。貧しいなかで懸命にやりくりしてインフラを建設したのです。あれだけ貧しい時代にできたことが、いまできないはずがない。かつて、貧しかったにも関わらず、なぜできたのかというと、将来への確かな手ごたえがあったからです。将来、その方向に伸びるとわかっていたから、設備投資もできた。国土強靭化は、そのような方向性を示したものなのです。だからデフレマインドを振り払い、皆で歯を食いしばって努力しなくちゃいけない。その気構えも重要です。

山岡 ただ、現実の復興は、かなり遅れていますね。復興事業の入札は不調続きです。

 津波の被災地では営々と築いてきたまちが、不幸にして、一挙に崩れました。そこから立ち上がるのは並大抵のことではないでしょう。しかし、地域をどう復興させるかを決める主体は、その地域で生活を営む皆さんです。高台に移るか、それとも海に近い場所を活かすか、国家ではなく、地域の皆さんに主体的に考えていただきたい。
だから、復興庁を立ち上げるとき、私は現地事務所をまずつくるよう、当時の民主党政権にも働きかけました。担当大臣は東京にいないと仕事になりませんが、現地の2~3市町村ごとに復興事務所を置き、各省庁の代表を送り込む。県や市町村の担当、商工会議所、地域の諸団体や住民の方々がそこに集まって、アイデアを出し合ってプランをまとめる体制をつくるよう言いました。鍵になるのは事務所長です。役所のOBでもいいから、行政経験がある人が現地の作戦本部長になって仕切ればいい、と随分、意見を言いましたが、進みませんでした。

山岡 震災前、数十億円規模だった予算が、一気に数百億円に膨らんだ被災自治体もありますが、これがなかなか消化できていません。宝の持ち腐れのようになっています。

 予算をつけても地元が意思決定しなければ、国があそこに住みなさい、ここに住みなさいとは言えません。破壊されたまちをつくり直すのは容易ではないでしょう。道路ひとつ隔てて、壊れたところと、無事に家が立っているところもあります。合意形成は、難しい。しかし、くり返すようですが、現地に権限をしっかり委ねれば、いろいろ意見があっても議論をすればどこかに落ち着きますよ。必要は発明の母です。現地の方々が判断できるような方向に持っていくことが復興庁の役割です。政権交代して、以前より、少しはよくなったと思いますが、まだ、困難が続いています。

山岡 そうしたなかで、宮城県の女川町のように津波で市街地の7割が流出しながら、山林を切りひらいた高台にまちを移転する「1000年に一度のまちづくり」も始まっています。7600人に減った人口を震災前の1万人に戻そうと、女川町が住民の土地を買い上げ、UR都市再生機構と包括的なパートナーシップを締結し、住宅と公共施設は高台移転。沿岸部は漁業と観光交流エリアにする壮大な計画のようですが、この女川モデルは国土強靭化ともリンクすると考えていいのでしょうか。

 そうです。強靭化を先行してやっているということですね。

山岡 女川町、あるいは宮城県東松島市の野蒜地区、岩手県陸前高田市などのプロジェクトでは、国土交通省の指導の下でUR都市機構がコンストラクション・マネジメント(CM)アットリスク型という設計から施工までをの発注する新たな建設工事契約が導入されています。この契約方式の意味とは?

 要するに、元々の発注者である市町村には、大規模な復興事業で契約上の実行管理をするノウハウは蓄積されていませんね。それでマネジメントも含めてURに委託し、着実に、やっていこうということです。いま、工事の予定価をつくって復興事業を遂行しようとしていますが、その工事がいくらなら妥当か判断できる技術者がいない市町村もたくさんある。インフラの冬の時代が続いた影響ですね。それで、実態に合った契約方式で、できないところはできる機関に委ねる。適正な競争のなかで整合性のとれた契約方式を選ぼうというわけです。とくに珍しいことではないです。


■公共調達における契約の根本的誤り

山岡 では、このあたりで脇さんご自身の歩みについてお聞きしたいのですが、どういう経緯で、建設官僚から政治家へ転身されたのでしょうか。

 建設省では河川局や道路局で公共事業に携わっておりました。伝統的に建設省は国会議員を輩出してきました。公共事業をしっかり行ない、建設産業を育てるには立法府にも人がいたほうがいいという組織的な判断ですね。そのことも建設省の大切な役割だと思っていました。あるとき、先輩議員がお辞めになる際、人事担当者が誰かやりたい人はいませんか、と省内に呼びかけたんです。カチンときましてね。ふざけたことを言うな、と。大事な役目なのだから、きちんと考え、誰か選ぶべきだろうと言ったんです。そしたら、しばらくして、では、あなたに決めました(笑)、と指名された。

山岡 投げかけた言葉がブーメランのように返ってきたわけだ(笑)。官界から政界に転じて、ご自身のなかで何がどう変わりましたか。

 河川や道路の公共事業に携わっていたときは、税金で、いかにいいものをつくるかに神経を集中していました。税金で仕事をしているのだから、国民への責任があります。立派なインフラをつくることが使命です。現場にずっと関わっていたので、業界とも付き合いは多少ありましたが、業界を健全にしようとか、契約方法を何とかしようとはあまり考えなかった。しかし、舞台が変わって、建設業界の代表として国会に入りました。公共事業が目の敵にされて、建設業界は死にかけていた。当然、どうすれば業界が健全になるのか考えます。そこで契約問題に行きあたり、根本的な誤りに気づいたのです。

山岡 何ですか。根本的な誤りとは。

 行政が「買い手」で、建設業は「売り手」だという根本的関係を取り違えているのです。私たちは、つい仕事を発注する行政が売り手で、建設業は買い手だと思いがちですが、実は、建設業はインフラをつくって国や自治体に売るからお金をもらえる。れっきとした売り手です。だけど、本来、生産者が有する値付けや商品の質や量をコントロールする術はない。すべて買い手の行政の指示に従わねばならない。売り手だけど弱い立場なので市場メカニズムなど働きません。ところが経済学者は公共事業にも市場原理を持ち込んで、市場メカニズムに従え、という。その結果、入札金額も、ただ単に安ければいいとなる。ダンピング合戦になって、業界が衰退しても平気。経済学者は独占禁止法まで持ち出して、正しい競争をしろと建設業を追い込む。そもそも独禁法は、生産者より弱い立場で、情報量も極めて少ない買い手の消費者を守るための法律です。行政は買い手とはいえ、圧倒的に強い、断然強い。業法に則って、売り手の建設業者を潰すことさえできる。公共事業で、何を、いつまでに、いくらでつくるかも決められる。それほど強い買い手を独禁法で保護するのは間違いです。業者間の正しい競争は必要ですが、公共調達をふつうの市場に置き変えようとする発想自体、間違いです。公共調達は、国や県、自治体が決めているのです。

山岡 なるほど、公共調達では売り手のほうが弱いんですね。なのに、一般に土木建設業界は強いと見られています。それは建築の分野で、家を建てたり、買ったりする場合、買い手である消費者のほうが弱く、当然、独禁法などで守られており、そのイメージが強いからではないでしょうか。

 そうそう。それはありますけど、震災後の国のお金の使われ方はどうもおかしい。たとえば、民主党政権は、サプライチェーンを守らなければならないと言い出して、部品メーカーとか、多くの企業に材料を提供している企業に3000億円、4000億円というお金をバラマキました。融資ではなく、返さなくていい補助金です。税金を私的企業にくれてやるのです。その根拠法は何かと訊くと、ない、と言う。そもそも税金は法定主義で、個人のお金を徴収するには法律に拠らねばなりません。だったら、自治体や公共団体に補助をするのならともかく、私的企業にお金を出すにも法律がいるはずだけど、ないのです。
 一方で、土木事業の入札で行政が設定した予定価格の9割以上で取ったら、不正があるのではないか、と拒絶される。安くしろ、安くしろです。建設業が疲弊したら災害復旧もできません。被災地で、真っ先に動きだすのは地場の建設業です。

山岡 確かに。東日本大震災後、地元の建設業がいかに懸命に「啓開」に取り組んだか、私も取材を通して知りました。

 大混乱のなかで動きだすのだから、行政と契約なんて交わしている暇はない。自分の家が地震で潰れても、真っ先に動かなくちゃ、人命を救えない。ところが、やっと状況が落ち着いて、かかった費用の精算をしようとすると「1社でやったのはおかしい。談合だ」とクレームをつけられる。これはまったくおかしい狂っています。議員になって15年、公共事業契約の適正化を主張し続けて、やっと最近、安ければいいではなく、まともな価格で受・発注する方向へ少しずつ変わってきました。

山岡 復興現場では、技術者不足、資材不足で労務単価、資材の高騰でコストがどんどんあがり、落札率も落ち込んでいるようですが……。

 それはいいんです。全部が筋道だってうまくいかなくても、デフレマインドを消すためには、それも必要。長いスパンで考えねばなりません。

■地方の定住性確保~「万象ニ天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ 人類ノ為メ国ノ為メ」

山岡 高知県の南海地震に対する多重的な防御、福井県のLNG(液化天然ガス)関連のインフラ整備、そして北陸新幹線。これらのプランも強靭化に位置づけられますか。

 そうです。地域それぞれの状況を入れこんでいます。そういう必要に応じて、先導的に強靭化が進んでいくでしょう。

山岡 米国のシェール革命の影響でロシアが慌てて、日本に天然ガスを売り込んできた。福井のLNG基地の建設は、エネルギー安全保障上も重要な意味を持ちます。最近、地方の衰退は仕方ない、大都市圏だけ活性化すればいいと極論を唱える人が増えていますが、地方が衰えたら、大都市圏も死んでしまいますね。

 現在の名産品のほとんどが幕藩体制下の江戸時代に生まれています。要するに各藩レベルの定住性がないと地域は栄えません。江戸が栄えたのも、そういう地方の繁栄が下支えしていました。定住性が確保されていないと、伝統文化も育ちません。その地域が嫌なら出ていけばいいという人たちの間では保守思想もひんまがってしまう。いまの自民党の保守思想も正しいものとは言い難い。保守と革新を取り違えています。

山岡 財政破綻したデトロイトからは市民がどんどん脱け出し、180万人くらいだった人口が70万人まで減っています。行政サービスは最悪。米国は土地が広くて、地価も安いから、嫌なら出て行けばいいけれど、平地が狭く、人口密度の高い日本では無理です。

 だから定住性の確保が重要なのです。私は、勝手に「7対3の法則」と言っていますが、その地域に生まれた人の7割くらいは定住して、3割は転勤族でもいいと思う。そのためには地方の産業とインフラは一体的に整備していかねばなりません。建設省に入って、最初に赴任したのが北陸地方建設局旧信濃川工事事務所でした。大河津分水路に立ってみると、天地雄大で青山士の「万象ニ天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ 人類ノ為メ国ノ為メ」という記念碑の文言がずっしりと胸に響きました。明治の先達は、乾坤一擲の気概で事に当たり、大工事を成し遂げ、新潟の穀倉地帯が守られたのだと感じました。安ければいいという情けない発想は微塵もない。

山岡 インフラの価値を、私たちはつい忘れがちになります。

 9月中旬の台風18号の襲来で、京都の嵐山の近くを流れる桂川が氾濫して、渡月橋付近の旅館やホテル、みやげ物店、30件以上が浸水被害を受けましたね。京都市は、市民約27万人に避難指示を出しました。渡月橋は濁流を受けていましたが、あの災害で、もし桂川上流にダムがなかったら、橋は完全に破壊されていますよ。浸水被害はどこまで拡大したかわからない。国交省には、そういうデータも出して、ダムはいらないと言っている人たちに本気で考えてもらえ、と言っているんです。

山岡 戦後から高度成長期にかけて、とにかく、早くつくれ、とインフラが構築されたわけですが、その過程では政治を巻き込んだ歪みも生じています。最初の赴任地が新潟だったとのことですが、いまだに毀誉褒貶の激しい田中角栄・元首相をどうとらえていますか。「日本列島改造論」と国土強靭化の違いは何でしょうか。

 入省したばかりでぺーぺーだった私は、飛ぶ鳥を落とす勢いの田中さんにお目にかかる機会はありませんでしたが、大きな役割を果たした政治家だと思います。列島改造論は、当時のことですから、新幹線、高速道路、橋など交通体系をよくすることが主眼だったように感じられます。総論としては、地方の産業とインフラ整備をリンクさせていますが、手法論の側面が強かったように思います。

山岡 総論としては大都市圏への集中を緩和し、地方に産業を分散し、国土の均衡ある発展を唱えていますね。

 ええ、国土強靭化と、根っこではつながっていますよ。しかし、過密、過疎がここまで進んでしまうと、本気で県レベル、自治体レベルで、じぶんたちの地域をどうするか考え直さなければ、取り返しのつかないことになる。国土強靭化は、そんな国家の構造そのものをしっかり見直そうと言っているのです。開発というより、国としてのありよう、地方としてのありよう、それを住民レベルでつくり直そうと提唱しています。どこかの業界、政党のためではありません。本気で国家の構造を考えず、地方分権と言いながら、わけのわからない「道州制」へと誘導したりするのは間違いでしょう。

山岡 道州制論議も、つきつめると行政の効率化ということですか。

 安ければいいという考え方の延長にある改革論です。だから疑問点だらけなのです。国会発の道州制論があってもいいけど、本当にそれでいいのか。国家が何を担い、地方政府は何を担当するのか。そのときに本当に道州制がいいのか。もう一回、国のあり方を原点から考え直す必要があります。そのために参議院では「国の統治機構に関する調査会」(会長・武見敬三氏)を立ち上げて、これから本格的に議論をしていきます。

山岡 この国のかたちが、いま真剣に問われていますね。

 国土強靭化は、そういう議論の入口でもあります。