2013年11月15日金曜日

第13回 参議院議員 脇 雅史さん(前編)

対談日:2013年9月27日  於:参議院会館

脇 雅史(わき まさし)さんプロフィール

1945年東京生まれ 1967年東京大学工学部土木工学科卒 参議院議員 土木学会フェロー会員

1967年建設省入省(北陸地方建設局旧信濃川工事事務所)、1974年中国地方建設局太田川工事事務所、1981年河川局開発課長補佐、1983年中部地方建設局三重工事事務所長、1985年河川局海岸課海洋開発官、1990年河川局治水課都市河川室長、1992年関東地方建設局河川部長、1993年道路局国道第二課長、1994年河川局河川計画課長、1995年近畿地方建設局長、1997年建設省退官
1998年参議院議員初当選(比例区自由民主党)、2004年参議院議員再選、2010年参議院議員3期目当選。

 この間、参議院国土交通委員会理事、外交防衛委員会理事、東日本大震災復興特別委員会理事、政治倫理審査会会長、参議院自由民主党国会対策委員長、参議院自由民主党幹事長、国土強靭化総合調査会顧問などを歴任


■公共事業悪玉論を払拭する国土強靭化

山岡 今回は「国土強靭化」に焦点を絞り、政界で最もパワフルに、この政策をけん引してこられた参議院議員・脇 雅史さんに話をうかがいます。現在、国会で「防災・減災等に資する国土強靭化基本法案」の審議が行われています。可決、成立は間違いないと思われますが、そもそも「自民党国土強靭化総合調査会」ができたのは2011年10月21日。東日本大震災の発生から7カ月後でした。会長は元運輸大臣の二階俊博さん、脇さんは副会長に就任し、法制化の陣頭指揮をとってこられました。調査会発足から、こんにちまでをふり返りつつ、国土強靭化とは一体何なのか語り起こしていただけますか。

 国土強靭化を最初に言い出したのは、京都大学の藤井聡教授ですね。『列島強靱化論――日本復活5カ年計画』(文春新書)を著しておられます。東日本大震災が発生し、日本は自然災害リスクに弱いことが明らかになった。こんな災害は二度と起こしてはならない。ハードだけでなく、ソフトも含めて、災害に強い、しなやかな国づくりをしようと谷垣総裁の下、自民党内に総裁直属の調査会を立ち上げました。ちょうど欧州や米国も同じような考え方で動いていました。リスクに強い国家構造にするには「コンクリートから人へ」は間違いです。コンクリートを使わねばならない大切なところもあります。いろいろ私たちも勉強するなかで法律がいるだろうとなって、当時、野党時代でしたが、「(旧)国土強靭化基本法案」をつくりました。

山岡 自民党は2012年6月に旧国土強靭化基本法案をまとめました。法案が発表されると、メディアは総投資額200兆円という数字をクローズアップしましたね。

 200兆円という数字は、ほとんど意味がありません。メディアは、そういうところばかりを強調するけれど、あまり意味はない。元々あった公共事業投資に震災の復興事業費を30兆、20兆と積み重ねていけば、10年で200兆くらいになるという話で、大した意味はないのです。それよりも重要だったのは、公共事業悪玉論、悪しき解釈で公共事業が沈んでいく現実を逆転させることでした。インフラをきちんと維持する価値観を復活させたかった。公共事業は悪で、予算も減らせばいいという極論が何をもたらすか。中央高速のトンネル事故は、その象徴でした。予め災害対応で、インフラの維持管理にお金を使っておけば、結果的に人の命も助かるし、施設も長持ちする。そのための強靭化です。

山岡 確かに、ここ十数年、公共事業の計画自体が害悪視されてきました。

 そもそもインフラは道路であれ、ダム、港湾、空港であれ、計画的につくらねばなりません。毎年、単年度でできるわけがない。10年、20年の期間を鑑み、計画的に建設しなくては整備できません。ただし、インフラ計画は単独のそれだけでは成り立ちません。上部概念としての国民生活、経済、社会活動をこうしたいから、下部としてのインフラが必要という関係になっていなければいけない。わが国は、戦後の焼け野原で、まず産業復興に着手しました。太平洋臨海部を中心に工業を発展させましたが、インフラ整備が遅れ、歪みが生じました。過密と過疎が起こる。そんな状況で、道路がない、製品をどう運ぶのか、と慌ててインフラをつくりだす。とにかく早く、実行することが正義で、なぜインフラが必要なのか訊くだけ野暮。30年もそういうことをやっていれば、当然、インフラも需要に追いついてくる。そうすると、地元との合意が難しくなり、何でダムや道路、橋がいるのか、と素朴な疑問が出てくる。その問いかけへの行政の答え方が不親切でした。その点は反省しなくてはなりません。上部と下部、経済計画と国土総合開発計画を大きなところでは繋いでいたが、各地域に落とし込んだ細かいリンクを張っていませんでした。そこに折悪しく、財政が悪化し、大蔵省(現財務省)が公共工事不要論を仕掛けたふしもあります。かつて自民党政権下で、インフラの整備計画自体が悪だ、と決めつけられて計画を放棄した。挙句の果てに「コンクリートから人へ」で息の根を止められる。半端な経済学者は計画論イコール統制経済とみなして、すべて市場でやればいい、と言ったのです。

山岡 新自由主義的な市場原理主義の台頭ですね。市場メカニズムを絶対視しています。

 そういうインフラ整備への不幸な経緯を、国土強靭化は払拭するのです。

山岡 しかし、旧強靭化基本法案は野田政権下で廃案になりましたね。

 民主党内にも少数でしたが、われわれの考えに賛同する動きもありました。藤井さんも民主党内の勉強会に招かれています。党派を超えた共感もあった。が、現実的に野党の立場では、政策を遂行できませんし、予算も使えない。政府との打合せもできない。まず私たちの考えを世間にアピールしなくちゃいけません。若干、荒唐無稽でも理念を明示する法律をぶちあげる必要がありました。そこで旧強靭化法案をまとめたのですが、世に訴える法案ですから、パフォーマンスの側面がなくもない(笑)。野党時代と、与党時代の法案が違うのはおかしいと言う人もいるが、法案の持っている意味合いが違いました。


■国土強靭化の目玉は都道府県、市町村による「国土強靭化地域計画」

山岡 昨年末、自民党が政権を取り戻し、第二次安倍政権が誕生しました。首相の安倍さんは内閣官房に「国土強靭化推進室」を設け、側近の古屋圭司さんを担当大臣のポストに就けました。自民党の国土靭化総合調査会のメンバーが担当大臣になるのかな、と見ていたら、やや意外でした。党と政府の間にすきま風みたいなものは……(笑)

 ないです。閣僚人事は総理の専権事項ですからね。

山岡 官邸の国土強靭化推進室は、諮問機関の「ナショナル・レジリエンス懇談会」を設け、藤井さんを座長に強靭化の具体案を練りました。一方、自民党は連立相手の公明党と「国土強靭化基本法案プロジェクトチーム(PT)」立ち上げ、脇さんが座長に就かれた。

 それは、自民党が政権与党に返り咲いて、強靭化を進めることを前提に法制化を図ろうとなりまして、PTの座長になるよう私に要請があり、お受けしたんです。

山岡 野党時代とは違う、与党としての法制化のポイントは何ですか?

 インフラ整備の不幸な経緯の払拭とともに「デフレからの脱却」も重要なポイントです。国土強靭化は、アベノミクスの「3本の矢(金融緩和・財政出動・成長戦略)」の2本目に位置づけられるわけで、デフレギャップを埋める有効策です。デフレギャップは10兆円ぐらいあるけど、不必要なものに公費は使えない。一方で、地震対策やインフラの維持管理にお金が要るのは自明ですから、まずは、そこに投資をしましょう、というわけです。デフレ脱却の財政出動に論理的解答を与えることも国土強靭化の使命だと、私は思っています。それとデフレから脱却するには、消極的な縮み志向の「デフレマインド」も振り払わねばなりません。公共事業の予算を減らせばいいという考え方の背景にも、心理的なデフレマインドがあります。

山岡 デフレが続くと、企業は内部留保をため込みながら、積極的な投資をしなくなる。個人も消費にお金を回さず、預貯金でため込む。経済的に余裕のある高齢者は、物価低迷の恩恵に浴して幸福感を味わえるかもしれないが、若い世代は給料が上がらず、非正規雇用も増えて将来への希望が持てない。悪循環が続きますね。

 だから、そこを断ち切るのです。新たな国土強靭化基本法案では、強靭化の基本計画をしっかり立てることを主眼に置いています。基本計画によって、政府全体に必要な分野に取り組んでもらわなくちゃいけない。すでに各省庁にはそれぞれ計画があります。

山岡 強靭化の議論から浮上したのは、①行政機能/警察・消防等、②住宅・都市施設、③保健医療・福祉、④エネルギー、⑤金融、⑥情報通信、⑦産業構造、⑧交通・物流、⑨農林水産、⑩国土保全、⑪環境、⑫土地利用などの分野ですね。

 そうそう。政府が国家として、日本のぜい弱性を、いろんな分野ごとに評価し、洗い出す。そのなかで、優先順位をつけ、国土強靭化の理念に沿った基本計画をつくる。その基本計画のもとに各計画をすべて見直し、実際の事業に取り組んでいく。ですから、国土強靭化基本法は、全体を覆う傘、いわゆるアンブレラ方式で各プランを包括するのです。難しいのは、今までの行政の事業をどう整理するか。それぞれの行政が、この予算科目は強靭化に入れる、入れないとすべてを強靭化で吸い上げようとしたら、わけのわからない計画になりますね。だから、現在、すでにある計画を強靭化の概念に沿って、リスクを管理し、より安全で安心なものにするには何をすべきか、自発的に考えてやりなさい、という意味で基本法なんですよ。

山岡 と、言うことは、国土強靭化という国家プロジェクトがあって、そのために特別の財布をこしらえて公的資金を入れ、公共事業を執行する、というのではないのですね。各省庁が既存の計画を、国土強靭化の理念と優先順位に沿って見直し、実行する、と。

 その時々の財政事情が違うわけですから、強靭化でこれだけ必要だから、この金を使えといっても、できないものはできない。デフレ脱却と同時に財政再建も重要だし、状況は変わります。だから200兆円云々なんて意味がない、と申し上げています。来年度の予算要求では、各分野で強靭化の脆弱性調査を行い、とくに急がれるものを拾い上げて、5000億円程度になっています。すでにできるところから始めています。

山岡 そこで、重要になってくるのが都道府県、市町村の役割ですね。

 そうです。国土強靭化の最大の目玉は、都道府県や市町村が基本計画を受けて「国土強靭化地域計画」をつくることです。地方自身が強靭化の視点で20年後、30年後、どんな地域にしたいか、どんな産業を栄えさせ、どんな暮らしを営みたいかを考え、アイデアを提案する。そこに各省庁の補助金などが組みこまれていくわけです。

山岡 地方自治体が自らビジョンを描くのですね。それは理想でしょうが、困難でもある。

 正直言って、計画づくりに慣れていない地方は戸惑うかもしれません。しかし、地方も自立が求められています。いいアイデアを出した地方にはお金がつく一方、悪いアイデアしかないところは衰えていく。それが実情でしょう。いまでも、山の中の過疎地に、電柱が一本もない街ができて、産業の活性化が進んでいるところもあります。いいアイデアを出すには住民の意見を採り入れ、地方政府も頑張らなきゃいけません。そのためには、これまでの消極的なデフレマインドと決別して、前に進むしかないのです。

■国土強靭化か、ナショナル・レジリエンスか――法案名称をめぐる綱引き

山岡 話題を、法案策定のプロセスに移したいのですが、今年5月20日、二階さんが提案者代表になって、自民党、公明党の共同提案で「防災、減災等に資する国土強靭化基本法案」が国会に提出されました。与党のPTと官邸の強靭化推進室との役割分担はどうなっていたのでしょうか。

 さまざまな面で調整しながら進めましたよ。われわれ立法府の役割は、法案を審議し、成立させることですが、実際に仕事をするのは役人、行政ですね。法案をつくる際には理念の整理、実際の行政上、こんな法案でいいのかどうか、推進室はもとより、各省庁と調整しながら、進めました。総理大臣以下、役割分担は法案に書いていますから、国会を通れば、すぐに実行可能になります。

山岡 法案は議員立法で提出されましたね。なぜ内閣提出法案にしなかったのですか。

 本質論として、閣法がいいと私は思います。閣法は、内閣法制局がこれまでのすべての法律と法案を突き合わせ、体系的に整理し、齟齬がないよう膨大な審査作業をしてまとめます。非常に完成度が高い。一方、議員立法は、衆・参法制局が審査しますが、どうしても力関係からして、ツメの甘い部分がでてきます。議員の熱意にほだされて、まぁ害がなければいいか、とまとめられるケースもあります。私は、閣法でやるべきだと奨めたのですが、時間的制約がありました。アベノミクスが現実に始まり、第二の矢の理論的支柱である国土強靭化を遅らせるわけにいかない。速度を重視し、議員立法にしたんです。ただし、内閣法制局は通らなくても、各省の目は全部、通させました。

山岡 法案の名称に「ナショナル・レジリエンス」と入れるかどうかで厳しく対立した局面もあったとか……。

 それは二階会長の強靭化への思い入れの強さですね。党の調査会の設置以来、一年半、数十回にわたって議論してきたわけですよ。なじみのなかった強靭化という言葉も、やっと法律用語になり、一人前になりかけたときに公明党が強靭化では嫌だ、と言いだして、何を言うか、とやりとりがあって、若干の調整が必要でした。

山岡 公明党は選挙公約に「防災・減災ニューディール」と称し、公共事業推進の看板を掲げていました。災害対策面を強調するとともに、公共事業へのバラマキ批判を交わすためだったとも伝わっています。支持母体の創価学会の防災、減災へのこだわりも強い。それで内閣府の参与が自公の間を取り持つつもりでナショナル・レジリエンスという言葉を持ってきた。実際に官邸の有識者会議には、その名前がつきました。しかし、二階さんは、冗談じゃないと、突っぱねたのですね。

 ええ。二階会長は、強靭化の名で会議をしてきたのに急に変えるのはおかしい。そんなに愛着のないことでどうするんだ、とお考えでした。地方のお年寄りにレジリエンスなんて言っても通じない。なんで今さらという自負心ですね。私は、個人的には名前にこだわりはなく、理念がしっかりしていれば強靭化でなくてもいいかな、と思いましたが、二階会長の強い思いを尊重したんです。最終的には総理に決断しもらおうかと思いましたが、そこまで煩わせてはいけないので、「防災、減災等に資する」とつけて法案名にしました。

山岡 法案が成立すると、基本計画をまとめる「国土強靭化推進本部」が重要な鍵を握ります。総理を本部長に官房長官、担当大臣、国交大臣が副部長として入る。本部の組織体制はどうなりますか。

 そこは行政の仕事だから、私が口を出す筋合いではありませんが、総理は、強靭化の重要性を認識しているから、各省庁から代表者を集め、ふさわしい組織にするでしょう。

山岡 ナショナル・レジリエンス懇談会の藤井座長は「大至急対応が必要な『重点プログラム』における施策例」として、住宅・建築物の耐震化、大規模津波対策総合事業、都市部における集中豪雨対策、巨大地震リスクを想定した食料供給体制の強靭化などを示しています。これらは強靭化の具体的メニューととらえていいのでしょうか。

 はい、そうですね。ただ、くり返しますが、財政事情で変わります。強靭化基本計画は、財政事情で決まる毎年度の予算、あるいは5年、10年先の予算に対する「元帳」みたいなもの。財政事情やデフレ脱却というさまざまな政策のなかで、毎年度、元帳に照らして、強靭化への予算も変わる。元の計画ですから、200兆どころか1000兆あっても困りはしませんよ。

(後編に続く)